NTTエレクトロニクスが低消費電力100G用デジタルコヒーレントDSP-LSI(※1)を製造・販売開始
2012年2月29日
NTTエレクトロニクス株式会社(以下NEL、本社:神奈川県横浜市、代表取締役社長 吉村寛)は、100GデジタルコヒーレントDSP-LSIを製造し、販売を開始します。
本DSP-LSIは、ITU(※2)で標準化されている伝送速度100Gb/sの大容量・長距離伝送システムを実現するものです。
NELでは、最先端の40nm製造プロセスを用いることにより、デジタルコヒーレント受信に必要な信号処理回路を1チップに収容した低消費電力DSP-LSIを世界で初めて製造し、販売を開始します。
本DSP-LSIは、ほとんどすべての光ファイバ伝送路に対して十分な波形歪み補償機能を有しており、メトロ及びバックボーン向けを中心に、広範囲に使用されることが期待されます。
本DSP-LSIは、2012年3月6日~8日に、米国ロサンゼルス・コンベンションセンターで開催されるOFC/NFOEC2012に出展します。
製品化の背景
(1)通信トラヒックの増大と伝送速度の高速化
FTTHやスマートフォンなど、大容量のデータを扱うブロードバンドアクセスの急速の普及に伴い、トラフィックの増加傾向は止まる所を知らず、年率1.5倍以上のペースで拡大しています。このため、通信キャリアは基幹ネットワークの大容量化を進めており、次世代100G-WDMシステムは益々重要となっています。
100Gb/sの超高速光伝送を実現するには、波長分散や偏波モード分散と呼ばれる光ファイバ中で発生する波形歪みを補償するとともに、光雑音耐力の向上が必要となります。これらの課題を解決する技術として、近年、デジタルコヒーレント受信方式が注目されています。
デジタルコヒーレント受信では、光受信信号と単色光源を干渉させた後に高速のAD変換器により電気信号に変換後、デジタル信号処理を施すことで、電気的に波形歪みを補償します。また、軟判定誤り訂正機能による光雑音耐力の向上により、光ラインカードのみを交換することで、既設のネットワークを40Gb/sから100Gb/sにアップグレードすることが可能となります。
(2)100G DSP-LSIの課題
デジタルコヒーレント受信では、超高速の信号処理を行なうDSP-LSIの実現が課題となります。100Gb/sのデジタル信号処理を実現するには、最先端の半導体プロセスを用いて大規模LSIを実用化する必要があり、その開発には伝送路中の波形歪みに関する光伝送システムの高度な知見とともに膨大な開発リソースが必要となります。
このように、開発リソースの問題、技術的な困難さなどのために、すべての機能を1チップに集約したDSP-LSIはまだ製品化されていませんでした。
(3)NEL 100G DSP-LSI
NELでは、自社で長年培われた通信アプリケーション向け大規模LSI開発の経験をベースに、総務省委託研究「超高速光伝送システム技術の研究開発」の成果を受けて、最先端の半導体プロセス技術を採用した高機能100Gb/s用DSP-LSIの製造を進めてきました。
今回、デジタルコヒーレント送受信に必要な信号処理回路を1チップに収容した低消費電力DSP-LSIを世界で初めて製造、販売を開始します。
本DSP-LSIにおいて最も重要な機能の一つであるAD変換器は、軟判定誤り訂正に対応した世界最高速の64Gサンプル/秒を実現しました。
すでに、昨年試作したDSP-LSIは多くのベンダにご評価をいただいております。この試作DSP-LSIを用いて光トランシーバの開発が進められており、製品化に関する報道発表もなされています(モジュールベンダ3社による報道発表(※3~5)、システムベンダ1社による報道発表(※6))。
また、試作LSIを採用した光トランシーバ同士(※3,4,6)を対向接続できることが既にPIF標準化部会ワークショップ(※7)で報告議論されています。上記の報道発表各社の長距離伝送用光トランシーバを対向して伝送実験を行い、良好な相互接続性が確認されました。
今回のDSP-LSIは、デジタル信号処理部を新規設計し、機能及び電気インターフェースはそのままに主要回路の消費電力を40Wまで低減させております。本DPS-LSIを用いることにより、エネルギー効率の高い光通信システムを構築することが可能となり、高密度実装による装置の小型化・空間使用効率の向上を実現することができます。
今後は、NEL製100G DSP-LSIを搭載した光トランシーバが複数のコンポーネントベンダから供給され、さらにこれを多くのシステムベンダが採用することで、100G関連製品の安定供給体制の確立が期待でき、100G-WDMシステムの発展に大きく貢献することができます。
低消費電力100G用DSP-LSIの概要
(1)概観及び使用例
写真1は、本DSP-LSIの概観であり、最先端の40nmプロセスで製造されています。
- サイズ:37.5mm×37.5mm
- コア消費電力:40W
また、図1に、本DSP-LSIを用いた光トランシーバの構成例を示します。
(2)特長
本DSP-LSIは100Gデジタルコヒーレント技術に必要な高度な機能をすべて1チップに集約しており、下記の特徴を有しています。
- 低消費電力
DSP-LSIは、コアロジック部と高速のインターフェース部から構成されます。
コアロジック部での消費電力は約40Wで、試作DSP-LSIのから大幅な低減を実現しました。 - 高性能誤り訂正機能
高性能な軟判定誤り訂正機能を用いて、NCG(Net Coding Gain)10.8dBを実現しています。 - 高性能波形歪み補償機能
- 最大波長分散補償量:+/-40,000ps/nm
- 最大偏波モード分散補償量:100ps
上記補償量は、ほとんどすべての光ファイバ伝送路に対して十分な値となっており、本DSP-LSIが広範囲の適用領域を有していることを示しています。 - 高速ライン切り換え機能
- 高速波長分散推定機能を内蔵し、15ミリ秒での高速ライン切り換えを実現しました。
販売時期と価格
- 販売時期:3月1日から販売活動開始します。
- 価格:納期・数量により変わるため、個別見積となります。
今後の予定
NTTエレクトロニクスでは、今後とも最先端の高速光通信LSIのラインアップを拡充していきます。
本記事に関する補足情報
【用語解説】
- ※1
- DSP-LSI
デジタル信号処理(Digital Signal Processing)用LSIの略。通常、アナログデータをデジタルデータに変換し、各種信号処理を実行するために用いられます。 - ※2
- ITU
International Telecommunication Union の略。国連に所属する標準化機関であり、通信に関する標準化を行っています。 - ※3
- 富士通オプティカルコンポーネント株式会社 報道発表資料
「100Gb/sデジタルコヒーレント光トランシーバを販売開始」
http://jp.fujitsu.com/group/foc/news/110915.html - ※4
- Opnext, Inc. リリース文
「Opnext introduces Next-Generation 100G DP-QPSK Coherent Transponder Module」 - ※5
- Oclaro, Inc. リリース文
「Oclaro Joins Opnext at 100G」
http://www.lightreading.com/document.asp?doc_id=214770 - ※6
- 日本電気株式会社 報道発表資料
「NEC、世界初 100Gbpsに対応したデジタルコヒーレント光トランシーバモジュールを発売」
http://www.nec.co.jp/press/ja/1107/2501.html - ※7
- PIF
Photonic Internet Forum の略で、超高速フォトニックネットワーク開発推進協議会のことです。全光技術による超高速大容量ネットワーク構築に資する研究開発の促進を図るために産学官が連携して設立した非営利団体です。
http://www.scat.or.jp/photonic/activity/2011/H23act_index.html#standard
写真1:100G用デジタルコヒーレントDSP-LSI
図1:100G用デジタルコヒーレントDSP-LSIを用いた光ラインカードの構成例
<本件に関するお問い合わせ先>
NTTエレクトロニクス株式会社 広報担当 萩原(はぎわら)